MELC(長岡ゼミ)のブログ

お金で買えない「地域の価値」

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6月11日、日曜日の朝5時を少しまわったころ。昨日の夜にセットしたスマホのアラームに起こされる。今日は、朝6時20分発の電車に乗って、1時間半かけて神奈川県横浜市の金沢文庫まで行くことになっている。重いからだを無理やりおこして、歯を磨いて家を出た。日曜日にこんなに早起きするのは、小学校のラジオ体操ぶりのことだった。 

金沢文庫で、来年夏に「シェアキッチンのある本屋(仮)」がオープンする。正式な名称はまだ未定だ。これは、私が店員として関わっている「屋台のある本屋-新城劇場-」のプロデューサーで新潟ツルハシブックス店主の西田さんと、金沢文庫で土地を持っている大家さんの平野さんが出会って始動したプロジェクト。まだ「シェアキッチンのある本屋をやる」ということが決まっただけで、詳細はほとんど決まっていない。唯一決まっているのは「地域に根ざした、シェアキッチンのある本屋になりたい」ということくらいだ。これから、メンバーを集めて意見を共有しながら、具体的なことを決めていく。私は、西田さんが最初に声をかけた大学3年生の小川愛媛ちゃんから誘われて、このプロジェクトに参加を決めた。今日は、シェアキッチンのある本屋の先駆けイベントをやるらしい。

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最寄駅から電車を2回くらい乗り継いで、金沢文庫駅に到着した。時間は朝の7時40分。集合予定の8時より少し早いので、私はほかの参加者4人を構内で待っていた。今日の先駆けイベントは、「本屋をやるなら、まずまちを知ろう!」ということで金沢文庫駅周辺の散策と、今後の方向性を話し合うミーティングの二部構成だ。8時を少し過ぎ、参加者と顔をあわせたら、さっそく駅の階段を降りて金沢文庫の街を歩きはじめた。

駅の出口には、お店より住宅がたくさんあった。静かで、道路は広くて、車はあまり通らない。人の姿もあまり見えなかった。駅から遠ざかる道は上り坂になっていて、大きくて立派な一軒家がいくつも並んでいた。

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駅から歩くこと8分弱、称名寺というお寺に着いた。これが今日、唯一決まっていた散策の目的地だ。称名寺は、鎌倉時代に北条実時が建立した菩提寺が起源らしい。住宅街のなかにひっそりとたたずむ赤門を見つけて、少し胸が高なった。強く主張せずに、ひっそりとそこにあるかんじがいい。

赤門をくぐると、桜並木の参道があらわれる。青々とした緑の葉が、その道の空気を凛とさせているかんじがした。昔ながらのお茶屋さんや、シンプルでおしゃれなカフェが並んでいて、朝が早くて開店前でければ入っていたと思う。境内では、深く息を吸ってもぜんぜん嫌なにおいがしない。むしろ、草と土と水のにおいが優しくて心地いい。風にそよいだ木々の葉っぱがこすれ合う音がする。この場所は、なんて、時間がゆっくり流れるのだろう。

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池をぐるっと周るように歩いていると、犬や猫の散歩をしている人や、おそらく町内会の集まりであろうおじさんたちにも出会った。「おはようございます!」町内会のおじさんたちに声をかけられた。たぶんシニアジョギングの会か、地域ゴミ拾いボランティアの会。手に袋とてぬぐいを持っていた気がする。「ぉはようございます」と私たちも挨拶した。おじさんたちはすごくニコニコしながら話かけてくれたのに、私は頰がこわばって笑顔が出てこなかった。東京では、歩いていて突然見知らぬ人に話しかけられるのはたいていナンパか、新商品のモニターだ。それに慣れてしまうと、コミュニケーションのきっかけになり得るこんな他愛ない挨拶ですらできなくなってしまうみたいだ。こんな、他愛ない挨拶ができる文化を持つここの人たちはすごく素敵だなと思った。

IMG_1164.JPG称名寺散策も終盤に差し掛かり、トンネルを抜けるとき西田さんがこんな印象深い一言を放った。

「ここ、いいところだね。お金で買えないその地域独特の価値って、ありますよね。」

これを聞いた私は、たしかにそうだと思った。初めて金沢文庫駅の階段を降りて、まちに出たときの独特の雰囲気や、称名寺までの道のりで感じた静かさ、称名寺で感じた古風で穏やかな空気のかんじ。すべてがまちを形作る要素になる。そして、私はその地域に暮らす「人」も、その土地の価値を作り出す重要な要素なのではないかと思うのだ。町内会のおじさんたちのような、知らない人と自然なコミュニケーションができる環境は、少なくとも私がいま暮らしている東京にはない。だからといって、もっと田舎だと、まちに暮らす人全員が知り合い、または親戚だったりするので、「知らない人」とコミュニケーションする環境はない。お金で買えないその地域の価値はきっとある。金沢文庫の場合は、穏やかで渋い「土地の雰囲気」と、知らない人と自然に話せる「人」なのではないかな、と思った。

これから本格始動するシェアキッチンのある本屋プロジェクトも、金沢文庫という地域独特の価値をいかせるような本屋にしたい。具体的な方針や詳細はこれから決めるとして、「誰のために、何をやるのか」「私たちがやる意味はなにか」をきちんと考えながら作っていきたいと思う。称名寺での散策を終えた後、大家さんの平野さんも含めたミーティングは2時間ほどで終了した。今後の具体的な活動より、メンバーの価値観をすり合わせる対話が大部分を占めた。これからが楽しみで仕方ない。

カテゴリー: Emily 越境レポート

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